何を思いついたのか

 クンケルは頭をふって、「ミッシュリーヌ嬢のほうは、私が知っていますが、ブロンドではありません。鳶色《プリユンタ》です」 と、いって、何を思いついたのか、眉に皺をよせて、「……ひょっとすると……」「ひょっとすると?」「……それは、エルマンスではなかったでしょうか」「それは?」「エルマンスというのは、私どもの店のマネキンですが、毎年、『季節《セエゾン》』になりますと、沢山に外套やケープを持たせて、キャンヌやモンテ・カルロへやります。新流行《ア・ラ・モード》の品物を身体につけて遊歩道《プロムナアド》をブラブラ歩くのがエルマンスの仕事なのです」 竜太郎は、思わず卓の上に乗り出した。「そのひとは、ブロンドですか」「さよう。美しいブロンドです」「美しい娘さんですか」「私共では、いちばん美しい娘です。年齢は今年二十歳。……まだ独身です。愛人がいるという話もききませんから、どちらかと言えば、気立はいい方なのですが、何しろ、気まぐれで……」「その娘さんは……」「昨日、南仏から帰ってまいりました。奥に居りますが、なんなら……」(あの夜の少女は、気紛れなマネキン!……) 竜太郎は、激情をおさえるために、眼を閉じた。

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