マナイールの国立図書館

 どうしたというのか、ヤロスラフは急に眼覚ましいほど快活な口調になって、「リストリア語とルウマニア語の比較《コンパレ》をなさるんでしたら、マナイールへおいでになった方が手ッ取り早いようですね。マナイールの国立図書館には、近東語の比較言語学のいい著述がたくさんありますから、巴里などでなさる半分の労力ですむわけです。夜の八時三十五分の「経伊近東特急《サンプロン・オリアン・エクスプレッス》」で巴里をお発ちになると、三日目の夕方にはマナイールに着きますから訳はありません。……それに、いまおいでになると、即位祝賀式をごらんになれるかも知れませんからね」「即位?……どなたが、即位なさるのです」「エレアーナ王女殿下」 思わず乗り出して、「この写真の、エレアーナ王女殿下が?」 たしかに、これは愚問だった。 ヤロスラフは、それには答えずに、「……ステファン五世王が二月二十五日にお薨れになったので、エレアーナ王女殿下が御登位なさるのです」(二月二十五日!) 竜太郎が、この日を忘れるはずはない。二月二十五日というのは、土壇であの少女に逢った日のことだった。 竜太郎は、夕暮れの窓のそばに坐って、カルヴィンの「リストリア王国史」を読んでいた。 沈みかけようとする夕陽が団々の雨雲を紫赤色《モーブ》に染めあげていた。

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