鉄兜をつけた一隊の兵士

 跨橋の上を、鉄兜をつけた一隊の兵士が行進し、そのあとに、砲車の弾薬車がつづいた。昇降場に向いた待合室の扉は全部開けはなされ、その奥で、休止している兵士と機関銃が見えた。どっしりとした三梃のチェッコ機関銃はチカチカと鋼鉄の肌を光らせ、列車の方へ黒い銃口をむけていた。 手提ランプをさげた、若い駅員がひとり車室に入ってきて、竜太郎に、なにか言いかける。なにを言ってるのか、一言もわからない。 駅員は、手真似でやりだす。鞄を持って、じぶんについてこいと言ってるらしかった。 鞄をさげて待合室の中へはいって行くと、構内食堂《ビュッフェ》の長い食卓のむこうに、灰色の外套を着た、士官らしい男が三人坐っていて、厳しい眼差しで竜太郎を迎えた。 構内食堂の中には、ただならぬ緊迫した空気がただよっていた。奥の丸卓では、電信兵がせわしそうに電信機の鍵をうちつづけ、重い靴音を響かせながら、伝令の兵士が絶えまなく出たり入ったりしていた。廊下の壁ぎわには、鉄兜に顎緒をかけた一小隊ばかりの兵士が、横列になって並んでいた。誰か身動きするたびごとに、銃剣がドキッと光った。竜太郎は、ここで、なにが起ろうとしているのか、理解することができなかった。国境駅の検閲にしては、いささか、物々しすぎるおもむきだった。 竜太郎は、旅行免状《パスポート》を差し出した。コレンコ風の、短い口髭を生やした、年嵩の士官は、旅行免状をチラと一瞥しただけでおし返し、近東のつよい訛のある英語で、たずねた。「どういう、用件で?」 竜太郎は答えなかった。今度は、仏蘭西語でたずねた。「リストリアへ、……どういう、用向きで」 鋭い眼が、まともに竜太郎の眼を瞶めていた。質問というより、訊問というのにちかかった。「語学の勉強に」

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