語学の勉強? 

 この返答は、たしかに士官の度胆を抜いたらしかった。が、依然として辛辣な表情をかえずに、「語学の勉強? |確実に《エギザクトリィ》?」「|確実に《アブソリューマン》」「語学の勉強には、少々、不適当な時期ですな」 士官の表情に、露骨に、不審をあらわしていた。「マナイールまでおいでですか」 竜太郎の背筋を、小さな戦慄が走った。 この国境の近くで、何か重大なことが起りかけている。じぶんの返答ひとつで、予測し難い危険が身に迫るらしかった。咄嗟に、どう答えていいのか、判断がつかなかった。 ふと思いついて、ダンピエール先生からもらった紹介状をとり出して、食卓の上へおいた。「今度の主要な用件は、リストリアの文部次官に会うことなのですが……」 士官は、紹介状を手にとって、仔細に眺めはじめた。紹介状には、学士院会員ギュスタフ・ダンピエールと文部参事官ポール・ジャルウの二人の名前になっていた。 士官の表情のなかから、ふと、辛辣な色が消えた。「よろしい。滞在日数は?」「いまのところ、まだ未定です」「毎朝陸軍司令部へ出頭して査証《ヴィザ》を受けて下さい」 竜太郎は、車室へかえった。汽車はゆるゆると動き出した。 陸軍司令部……。ただならぬ感情が、じかに、胸にせまった。(いったい何が起ったんだろう? )

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