正午近くなってようやく呼び込まれた

 正午近くなってようやく呼び込まれた。査証だけではすまなくて、ここでも、様々と手のこんだ訊問を行ったのち、こんな達示をした。明日以後は、ホテルに宿泊している外国人は、ホテルから一括して査証を受けさせるが、その代り、市中通行を禁止する。それによって、何等かの被害を受けても、当局は、その責めに応じない、ということだった。「つまり、ホテルから一歩も出てはならないというのですね」 胸に綬をつけた白髯の老士官は、慇懃に微笑しながら、「万全を願うならば、そうなさるに越したことはありませんな」 竜太郎は、執拗に押しかえした。「つまり、絶対に外出してはならぬと……」「そう申してはおりません。そのほうが御安全だろうというのです。これは御忠告です」 あくまで丁寧だったが、「その理由は? じつは、私は昨夕おそく着いたばかりなので、何がなにやら、どうも、途方に暮れておるのです……」 鋭い声が、遮った。「戒厳令実施中ですから」「だから、その理由を……」「それは、お答えする限りではありません」 さすがに、それ以上押し返すわけにはゆかなかった。 竜太郎は司令部を出ると、地図をたよりに、王宮のある『北公園《パルク・ポラ》』の方へ歩いていったが、間もなく、コソヴオ橋の袂で銃剣の兵士に堰き止められてしまった。それから以西は管制区域になっているということだった。 文部省は、猶太《ユダヤ》教の寺院に隣った、美しい糸杉で囲まれた一画の中にあった。若い書記生らしい青年に紹介状を手渡しすると、ここでも長い間待たされた後、けっきょく、多忙で、今日はお目にかかれないという、答えだった。

— posted by id at 08:23 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.6101 sec.

http://baqoo.cc/