身も細るような奔走と感傷

 ゆくりなく、かりそめの契りをしてから、どのような思いで、そのひとの姿を追い求めていたことであったろう。巴里での、あの、身も細るような奔走と感傷。はるばるとこの荒々しいバルカンの風土の中にやって来る途中の灼けつくような物思い。……そして、いま、冷湿な砲台監獄の壁をへだてて、その人と隣り合せている。―...

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マリッツァ砲台監獄の地下牢

 竜太郎は、たずねた。「ここは、どこです」 老人は美しい抑揚のある仏蘭西語でこたえた。「マリッツァ砲台監獄の地下牢です」 ぼんやりと、記憶が甦ってきた。 じぶんのペン・ナイフが浅黒い顔をした男の頬を斜めに斬り裂き、おさえた指の股からあふれるように血が噴き出し、ゆるゆると袖口の方へ流れ込んで...

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あの夜の少女

 その顔! あの夜の少女……、エレアーナ王女の、その、面差だった! 何を思慮する暇もなかった。ひと飛びに車道をはね越え、手近の男の肩を掴むと、右手の拳が、したたかその顎を突き上げていた。その男は後さがりに二三歩よろめいてゆき、そこで踏み止まると、ほかの二人と鋭い断節音で、叫びかわしながら、猛然と...

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