マリッツァ砲台監獄の地下牢

 竜太郎は、たずねた。「ここは、どこです」 老人は美しい抑揚のある仏蘭西語でこたえた。「マリッツァ砲台監獄の地下牢です」 ぼんやりと、記憶が甦ってきた。 じぶんのペン・ナイフが浅黒い顔をした男の頬を斜めに斬り裂き、おさえた指の股からあふれるように血が噴き出し、ゆるゆると袖口の方へ流れ込んで...

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あの夜の少女

 その顔! あの夜の少女……、エレアーナ王女の、その、面差だった! 何を思慮する暇もなかった。ひと飛びに車道をはね越え、手近の男の肩を掴むと、右手の拳が、したたかその顎を突き上げていた。その男は後さがりに二三歩よろめいてゆき、そこで踏み止まると、ほかの二人と鋭い断節音で、叫びかわしながら、猛然と...

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すごすごとホテルの方へ帰りかけた

 竜太郎は運河の並木道を、すごすごとホテルの方へ帰りかけた。ふと、思いついて、新聞売台でロンドン・タイムスやニューヨーク・ヘラルドを買って、街路樹の蔭のベンチに腰をおろした。 あわただしく頁をかえして、近東版のある場所を探し出すと、七八種もあるその新聞のいずれもが、一箇所ずつ丁寧に切り抜かれていた...

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